第2章 持続性スリープ
「私は誰にも見付からないはずなの。私が私であるための定義は誰も知らないはずなの。私を私だって断言することはできないはずなの」
この目は知ってる。雪乃の目だ
つまらなそうな、世界を見ていない目。気だるげにただそこにあるものを捉えているだけの目
誰とも会話をしていないときの、普段のノーマークな目
「間宮 雪乃は都合が良い生徒。それで良いじゃない。そのままで過ごせていれば私は貴方を嫌いになんてならなかった。貴方も嫌われないで済んだ……それで良いでしょう」
つまらなそうな瞳を狭め、少し首をかしげる
断定の言葉遣いしかしない、否、できない彼女に一回だけ頼み事をしたことがある
せめて、首をかしげるかなにかをしてくれ、と
それを今でも実践してくれてる辺り、話を伝える意思はあるらしい
「努力をしても基本ステータスは変わらない……なら、それを埋めるための戦略は立てたって構わないでしょう。例えそれが自分のヒットポイントを徐々に削っていく副作用があったとしても……勝てばなんの問題もないの」
世間の渡り方を知っているからこそ、こいつはそこが弱点になる
ねじ曲げられるのがなにより嫌ってる
否定されるのが納得できない
結果の過程を求めすぎていて、結論的になにも変わらないなら過程を完璧にする……
器用
その二文字が似合う
優美なほどにその二文字を纏って、完璧を模様して……朽ちる
そんな姿なんて望んじゃいないんだよ。俺は
「レベルが上がれば全回復、ステータスも上がる。足りないなら補えば良い……基本が違うならレベルという数字で。それでも足りないなら…………その人から逃げる。そうしたら……結果もくそもないから」
饒舌さはたぶん、前々から心に抑えてたものを口に出した結果
黙るという選択肢を奪われたがゆえの…………足掻き、論破
「…………だからね、私は貴方から逃げようと思うの。赤羽 業。私を私と提示した貴方が大嫌いで、でもどうしようもないくらい私はお人好しだから……傷付けないように、逃げるの」
伏せられた瞼
時間的に灰色に見える瞳が地面を捉え始める前に
「逃がすかよ」
植え付けるような低い声でその瞳を俺を捉えさせた