第8章 期待値アンサー
「大丈夫だよ……渚。ちょっと、恥ずかしかっただけだから」
「間宮さん……」
「うん、大丈夫」
きっと、皆知らないから
私は中学の時と同じように
誰も知らないところに行くんだ
「私は篠川高校だよ。シナリオライターとか、そういう系の高校」
「聞いたことないね。そんな高校」
「県外受験なの。私」
「ええ!?雪乃すごいね!」
スゴくなんてない
偏差値的には私は余裕で受かるところ
まず、専門に等しい高校だから学力は文系までくらいしか求められない
「県外ってことは、お二人は中々会えなくなりますね。あ、でも、家がご近所でしたっけ?」
「お前らは高校でもリア充か……デートし放題だなー」
それに、私は反論も答えれなかった
言おうと準備していたことが
先読みで今言っているから
せめて、カルマがいなかったら……よかった
顔をあげない私の目の前にひとつ手が差し出される
私の方は向かずに
手だけ差し出して……
「雪乃」
その合図を私は知っていた
私の方を向かずに手を出して
名前のみを呼ぶ
その合図は
私とカルマの間での合図
逃亡を意味する……合図
もっとも効率の良い逃げ方
私はその手にそっと乗せてから
強く握る
それをぎゅっと握り返してから、彼は笑う
「じゃあ……期待に応えてデートしてくるわ。じゃあねー」
軽い調子でそれを口に出し……引く
体がガクンと引っ張られた感覚に、私は何も考えず
前も見ず、足だけを動かした
後ろから聞こえる皆の声を聞き逃しながら