第2章 持続性スリープ
ジャァーー……と、水の流れる音がボー……とする私の頭のなかに流れる
未だにヒリヒリと痛む手のひらを眺めながら、その水の音をBGMにしていた
……なんで、私は叩いたんだろ。気が付いたら、鞄も全部投げ出して走ってて…………助けられた彼を叩いていて……
怒っては……いる。でも、口に出すより先に手が出るとは思ってなかった
あれ、一応口には出してたっけ?
さっきのことなのに叩いた衝撃が強すぎて記憶が曖昧だ
「はぁ…………」
「素晴らしく水の無駄してんねぇ?もうタオルびしゃびしゃだよ」
「!」
キュッ……!と、蛇口を閉めるその腕が背後から伸びてきて驚く
そんなにボー……としてた?
いやでも、ここにこの人がいるということはそういうことか
急いでタオルを絞り、振り返って差し出す
「ん、さんきゅ…………で、なに考えてたの?」
タオルを受け取った彼は、頬にタオルを当てながら問い掛ける
なにを、か……色々考えてたけど…………一番は
「初めて……貴方を叩いたのかもしれない。それで……よくわかんないけど、感情って大変だなって……考えてたよ」
自分でも思ってもみないことをしでかしてしまう
それが知り合いならともかく、赤の他人にでもやってしまったときには責任のとりようがないかもしれない
なのに、なんでだろ……彼は赤の他人でもないのに、怒られてるわけでもないのに、目を会わせられない
瞳を反らしたままになってしまう
「……痛かった……」
「…………それはどっちの?俺に聞いてるの?自分の意見?」
「あ…………痛かっ、た?」
「相変わらず擬音苦手だね。ほぼ本気でしょ?痛いに決まってんじゃん」
ですよね
私自身の手ですらこんなに痛いんだ
「……ごめん」
でもそれよりも
心の方が痛いかもしれない