第2章 持続性スリープ
あー……こりゃダメだ
教師として、先生として……こいつを殺すことはできない
そう理解させられ、先生を散々おちょくってから帰路に着こうとする
「…………これは珍しい」
”着こうとする”という言い方をしたのはその珍しい光景があったから
切り揃えられた髪からいつもなら覗く瞳が伏せられていて、鞄はどうやら走るかなにかに邪魔だったのか遠くに置かれてる
光景は……間宮 雪乃の姿
あぁ……見てたんだな
さっきのやつを、俺があそこから落ちるのを……見てたんだな
そう思いながら、彼女と相対する
雪乃はゆっくりと俺に近づき……その手を振り上げた
「馬鹿……っ!」
パン……!
乾いた音がなる瞬間に見えたその顔は、睨むでもなく、ただただ、怒りだった
でも、俺を叩いたあとの表情は目を見開いて、自分の手と俺の頬を交互に見つめていた
「…………なに驚いてんの」
まるで鳩が豆鉄砲を食らったみたいに……
「自分で、自分の意思で俺を叩いたくせに」
いや……驚いてるのは何となくわかる
こう問われるはずだ……『なんで、止めなかった』と
「なんで……止めずに…………止めれたでしょ」
寧ろ驚きより罪悪感が勝ってるな……今のこいつは
反射的な自己防衛はあるけど……俺を実際に殴ったり叩いたりしたことは無いはずだ
「……怒ってんでしょう?なら、俺だって怒られてやるよ。自分が悪かったのわかってるし」
「っ…………ごめん、タオル……濡らしてくる」
「別にこのままでも良いのに」
「……そういうわけには、いかないから」
逃げたな……と、小走りで校舎の方へ向かう黒髪を追い……真相で思う
「カルマくん……大丈夫?」
心配そうに問いかける渚くんに、俺はなぜか微笑む
「平気だよ、たぶん……向こうも痛いだろうし」
さて、あっちは手が痛いのか……それとも心が痛いのか……
「どっちだろうねぇ……」