第1章 審神者就任
連れてこられたのは山深くにある日本式の豪邸で、なんとなく神聖な雰囲気を漂わせたそこに修司は息を飲んだ。
黒服に引っ立てられるように縁側を歩き、大広間に文字通り放り込まれる。転がるように入ってきた修司を、厳格そうな声が呼んだ。
「修司だな。ここへ座れ」
顔を上げた修司が見たのは、着物姿で上座に座る、やはり声の通りに厳格そうな老年の男性で、自分を見据える瞳が大層厳しい光を宿していた。
萎縮して動けない修司を黒服が引き摺るようにして男性の前に連れてくる。崩れるように座った修司が、大広間にいた人間全ての探るような、また咎めるような視線に耐えかねて居住まいを正したところで、老年男性が口を開いた。
「修司。私の孫であるお前には、こで霊力を高める修行に入ってもらう。今日から此処がお前の家だが、とは言え私の後継者としての自覚を持って慎ましい行動を心掛けるように」
「あなたが俺のおじいちゃん?」
「お爺様と呼べ」
相変わらず厳しい視線を寄越す、初めて会う父方の祖父に修司は戸惑いを隠せなかった。父は審神者になる前は普通のサラリーマンをしていて、父方の祖父母は死んだと聞かされていたからだ。
「じーちゃんとばーちゃんはこの事知ってるの?きっと今頃心配してる」
「黙れ。言葉遣いのならんうちは余計なことは話さずとも良い。今日はもう退がれ。すぐに修行を始める」
ほんわかした雰囲気の優しい父からは想像も出来ないほど厳格な雰囲気の祖父に、修司は驚きを隠せなかった。
修司に与えられた部屋は広さ故か殺風景で、ここまで案内してくれた老齢の女性に訳も分からないうちに袴に着替えさせられ、終わるとすぐさま部屋を出た。
長い廊下を何度か折れて道場のようなところに連れられた。
中には自分の祖父だという老齢の男性と、その前に一振りの刀が置いてある。
こうして修司の修行の日々が始まった。