第1章 審神者就任
父が死んだ。
それを聞かされた時、修司はまだ10歳になるかならないかの頃で、審神者というものを今ひとつ理解できてはいなかった。
間も無く審神者の本部とやらに母が呼ばれて、一時的に母方の祖父母に預けられたはずだった修司は、結局その後3年間祖父母宅で暮らすこととなる。
それは、本当に突発的に母の神力が目覚めたからで、父と同じように審神者となり、本丸を任されたのだと祖父伝てに聞いた。
母方の祖父母は修司に愛情をたくさん注ぎ、修司も近所の子供達と近所の公園や河川敷を駆け回りながら色んな知識を吸収して天真爛漫な少年に育っていった。
母方の祖父母と暮らすようになって3年と少しが経ったある日、政府から修司の母が流行り病で床に臥せり審神者としての力が弱っていると連絡が入ったのだ。
動揺する祖父母。静かに家の前に停まった黒い高級車。
遊びに出ていた修司は本能的に「なんとなく今帰宅しないほうが良さそうだ」と考えて踵を返した途端、背後にいた黒服の男に顔からぶつかりそのまま拘束されてしまった。
驚いて何も反応できないうちに黒塗りの高級そうな車の後部座席に押し込まれ、祖父母宅から出てきた他の黒服達に両隣を挟まれる。
祖父母が慌てた様子で家から出てきて何かを叫んでいたが、修司が状況を理解できないうちに車は滑らかに発進した。口元に白いハンカチを充てがわれた途端に意識が遠のく。
そしてそれが、祖父母と暮らした最後の記憶になる。