第2章 初期刀 山姥切国広
「主、起きれるか?」
「なに……?いい匂い…する」
「食え」
差し出されたお椀を、緩慢な動作でのっそり起き上がった修司が覗くと、粥に大量の梅干しが、それこそ無造作に放り込まれていた。
「作ったのか?貴方が?」
「写しの作った粥なんて食べられないということか?」
「そんなこと、一言も言ってない。食べるよ」
「無理して食べなくてもいい」
そっぽを向いた山姥切だが、やはり気になってチラチラと修司の様子を窺ってしまう。
木の匙で掬った粥をふーふー冷ましてから口に運ぶまでの一連の動作を山姥切は息を飲んで見守った。
「めっちゃすっぱい」
言って、ケラケラと笑い始めた修司に、山姥切は驚きを隠せなかった。出会ってから修司の表情がここまで動くのを見たことが無かったから。厳格な雰囲気で、口数も多くはなかった修司の第一印象から、彼の感情はもう凍り付いているのだと思っていた。
ひとしきり笑った修司は、最後に山姥切の瞳を悪戯っぽく、でも真っ直ぐ見て、
「梅干し入れすぎ」
と言った。
「人間の食べるものなんて分からないんだから仕方ないだろ」
と再びそっぽを向いて山姥切が返すと、
「味見くらいしてくれたっていいじゃないか」
と拗ねたように返ってくる。
投げ掛けた言葉に返答があるというのはこうも心を跳ねさせるものなのか、と山姥切はいつになく気分が高揚するのを感じていた。
「それにしても、すっぱいな」
言って修司は再び笑い、釣られた山姥切の口角が上がったところで小さく「ありがとう」と呟いた。
笑い過ぎたのか、修司の目尻に浮かんだ涙の粒を照れた山姥切が手に持っていた布巾で乱雑に拭う。
「うわっ、それ台拭きだろ。なんかやだ」
「うるさい!さっさと食べておとなしく寝ろ」
まくし立てて部屋を出た山姥切は、つかつかと台所へ入り鍋に残っていた粥を匙で掬って口に入れてみた。
「う……確かにすっぱいな…」
不思議と笑いが込み上げてきて、台所で一人声を上げて笑った山姥切が、今後の修司の食生活を考えて笑えなくなるのはもう少し後の話。