第3章 弱い俺
「瑠璃でーす。開けるよ〜?」
家に居たら聞くはずのない、若い女の声で目が覚めた。
瑠璃って言ったな。本当におそ松兄さんたち呼んだんだ。というか、こんな姿見せたくないんだけど。
などと思っていても、風邪菌を詰め込んでいる唯一の隔たりである襖がスッと開いたのが聞こえてきた。
「あ!瑠璃!!いらっしゃーい!!」
「おそ松兄さんうるさいよ!!十四松起きちゃうだろ!?」
と、おそ松兄さんとチョロ松兄さんの声が部屋中に響いた。
おそ松兄さんにうるさいとか言っておきながら、なかなかにチョロ松兄さんの声も大きい。
目が覚めても、やっぱり先程と同じようにしんどかった。額の上に乗せてあった氷嚢も氷が溶けてしまったのか、もうぬるくなっていた。
他の奴らは、瑠璃とガヤガヤしていて騒がしい。十四松の声が聞こえてこないから、十四松はまだ起きてないのだろう。よくもまぁこんな騒がしい中で寝ていられるもんだな。羨ましい。
と、呑気に働かない頭で考えていたら瑠璃に話し掛けられた。
「…一松、食べられそう?」
何を?と、思ったが、声が出そうにない。とりあえず、空腹でもないしむしろ何も口にしたくなかったので首を振ったら、ぬるくなった氷嚢が落ちてしまった。
「んー、無理に食べさせてもなぁ…摩り下ろしてあるけどやっぱり無理そう?」
瑠璃が俺に見えやすいように、皿の中身を見せてきた。
あぁ、摩り下ろしてあるリンゴか。それなら食べられそうだ。
そう思って、俺の顔は今酷い顔をしているんだろうなと思いながらも、瑠璃の方を見て、食べる、と言おうとした。
「……た………べ、る」
情けない声を出してしまった。でも、瑠璃は気にせずに、摩ったやつなら食べれそう?と聞き返してくれた。
それに対して頷くと、瑠璃が横を向けるかと聞いてきたので、顔だけなら向けそうだったので、顔だけを横に向けた。
「ありがと、じゃあ口開けて?ちょっとずつリンゴ入れてあげるから」
あぁ、食べさせてもらえるのか。別に1人で食べれるのに。そう思って、起き上がろうと思い腹筋に力を入れようとしたが、まったく力が入らなかった。
成人してまで食べさせてもらうのは恥ずかしいが、仕方なく口を開けた。