第2章 風邪っぴきさん
「リンゴってさ、いつもだと剥いて切っただけで食べるでしょ?でも、風邪引いたらね、摩り下ろしてくれるんだよね〜!風邪引いてお得!?ってやつ!!」
たしかに、十四松の言いたいことはわかる。摩り下ろすのは、はっきり言ってリンゴの皮を剥いて切るより面倒臭い。普段なら、絶対に摩り下ろすことなんて母親とかしてくれないから、風邪引いてリンゴの摩り下ろしたものが出てきたら、すごく嬉しかった。
「十四松が良いんだったら良いよ。はい、召し上がれ」
「うわぁ〜い!!いっただっきマッスル!!ごちそうさマッスル!!」
「はやい…」
十四松にリンゴの摩り下ろしたものを手渡したら、1秒もせずに十四松の体の中に吸収されてしまった。
辺りを見回してみると、元気良く動き回っているのが5人。寝込んでいるのは1人。
「みんなもうお粥さん要らないね」
「はぁ!?病人に何言ってんの!?鬼ですか!?」
「鬼じゃないです。だって、みんなそれだけ動き回ってたらもう治ったも同然でしょ?私の家から肉じゃがとハンバーグ持ってきたから、今日の夕飯はそれ食べてください」
「肉じゃが!?ハンバーグ!?イェーイ!!!」
おそ松トド松カラ松十四松は、本当に風邪で寝込んでいたのだろうか、と思うほど飛び跳ねていた。一応、まだ病人がいるのだが、お構い無しだ。
「瑠璃、一松の夕飯どうしよう?」
「あー、お粥さん作っておくから食べれそうだったら食べさせてあげてくれる?それから食べた後に、薬飲ませてあげて?」
「うん、わかった」
他の6つ子と違って、未だに息を荒くして寝込んでいる一松を見つめるが、私の視線に気づくことはない。いつもなら、少し見てただけでも「なに…?」とか「見ないでくれる」とかツンツンした言葉を言ってくるのに。
「そういえばさ、一松がこんなに弱ってるところ見るの初めてかも…」
「え、本当に?」
私の知ってる一松は、初めて会った中学生の頃は真面目、高校生になると一松は少しずつグレていき、そして今、成人になってからは、だらんとした一松をよく見る。
中学生の頃は真面目だったのにね、と一松に話せば「やめて、黒歴史だから」とか言うけど、今の方がよっぽどか黒歴史なんじゃないか、と思うのは心の内に秘めている。