第2章 吉原炎上篇の続き/阿伏兎メイン
春雨の船に戻ると、神威はシャワーへ、阿伏兎と私は医務室へ。
医務室には誰もいなくて、仕方なく私が包帯を巻いている。
『バカだねェ阿伏兎は〜』
「いや、アンタに言われたくねーよ」
『こーんな傷だらけにして、そりゃ夜兎は治りが早いけど、むりしすぎだね』
「仕方ねェ」
『もーう。はい。出来たよ』
軽く包帯を巻いた背中を叩く。
「悪いな」
『いいよ。お礼は高くつくけどね』
「勘弁してくれ…」
あははっと両者笑う。
不意に私は阿伏兎の左腕をじっと見る。
『ま、阿伏兎には代わりの左手がいるねェ。用意しとかなきゃ…』
「右手だけでも残ったんだ。助かったな。こりゃ幸運だ」
『そうだね。阿伏兎にしては幸運だね。
……とか言うと思ったかァァァ!!』
バッシーーーンッッ!!と阿伏兎の左肩を思いっきりたたく。
「いってぇぇぇ!」
『バカか!アンタはバカなのか!え!?腕一本で幸運?バカヤロー!相手が夜王でもホイホイ差し出すんじゃねェ!
自分はいいかもしれないけど!私は嫌なんだ!!』
「お、おい…」
『本当はあの時、旦那を止めるのは私の方が良かったんじゃないかとか!阿伏兎を助ける余裕はあったんじゃないかとか!!悔しい事だらけなのに!
そんな簡単に幸運とか言うな!』
「…」
ハァハァと肩で息をし、溜まっていた想いが一気に吐き出されると同時に涙もポロリと流れ落ちた。
「!」
『…ッ、ごめん…取り乱した…』
ゴシゴシと服の裾で目元を拭うと、鼻水も出てきそうだったから、思いっきり吸ってやった。