第1章 新たな物語
「だが、どういうことでござる?志々雄は十年前の戊辰戦争で死んだと聞いている……」
「……」
「そうか……。やはり志々雄は戊辰戦争で死んだのではなく、同士に抹殺されたのでござるな」
何も言わない大久保さん。
あの荒んだ時代では、表に漏れてはいけない裏の所業の実行者を秘密裡に消して安全をはかっていたという。
しかもそれが珍しいことではなく当たり前に行われていたらしい。
大久保さんは言った。
志々雄真実は頭の回転も剣の腕も緋村さんと変わらないほどの実力者だった。
しかし常人には理解できないほどの功名心と支配力を抱えた危険人物であった。
影の人斬りを受けたのは弱い者や仲間のためではなく、自分の実力と存在をしらしめるため。
彼が行ってきたことは表に決して出してはいけない。
表に出てしまえば明治政府が根底から覆されるほどの重大なものもある。
彼が生きたまま新時代を迎えれば政府の弱みにつけこんで増長し日本は彼一人の手によって弄ばれるのは目に見えている。
そう言った。
「だから戊辰戦争の混乱に乗じて殺した……でござるか」
「そう、確かに殺した……。死体に油をかけて火までつけさせた。だが、全身を炎に焼かれながらも志久雄真実は生きていた」
そして今は血肉を好む戦闘狂や平和を忌み嫌う武器商人を仲間にして一大兵団を形成し、京都の暗黒街に拠点を置いて自分が手をくだした過去の暗殺を切り札に日本を二つに割る復讐戦争を起こそうと画策していると大久保さんは言った。
「幾度となくさし向けた討伐隊はことごとく全滅……。もはや頼みの綱はお前しかいない。この国の人々のため、緋村、今一度京都へ行ってくれ」
大久保さんが言いたいことは、つまり……。
「それってつまり剣心に志々雄真実を暗殺しろって事ですか」
薫さんが大久保さんに尋ねる。
答えなんて聞かなくてもわかる。
薫さんが言ったことがすべてだ。
志々雄真実を暗殺したら報酬をするというが、そう言う問題じゃない。
報酬なんていらない。
「要するに全ててめーらが仕出かした卑劣な所業が原因なんだろう。その尻ぬぐいを剣心にさせようたぁ、大層虫が良すぎるんじゃねーのか」