第1章 新たな物語
緋村さんと斎藤さんは、同時に足を踏み込んだ。
もう誰も二人を止められない。
そう思っていた時、
「やめんか!!」
道場に大きな怒声が響き渡った。
その声に二人とも動きを止める。
道場に入ってきたのは警務総監の人と元薩摩藩維新志士、大久保利通だった。
大久保利通って言えば明治維新で功績を上げた「維新三傑」の一人だったはず。
国政の全てを掌握する「内務省」の頂点、つまり平静で言うと内閣総理大臣ということになる。
勉強していたことが役に立っていることに少し感動しながら私は大久保さんを見つめる。
「手荒な真似をしてすまなかった。だが、我々にはどうしても君の力量を知る必要があった。話を聞いてくれるな」
「……ああ。力ずくでもな」
今までの喧騒が静かになる。
斎藤さんは白けたと言い、道場を後にした。
「外に馬車を用意してある。来てくれ」
「寝惚けるな。この一件に巻き込まれたのは俺一人では――――――」
何かを言いかけて緋村さんは口を紡ぐ。
するといきなり自分の拳で自分の額を思い切り殴った。
あまりの出来事に何が起きたか理解ができずに茫然としていると
「この一件に巻き込まれたのは"拙者"一人ではござらん。話はここにいる皆で聞く」
一人称が"俺"からいつもの"拙者"へと変わった。
雰囲気も先ほどとは違って少しだけ和らいでいる。
私たちの知っている緋村さんが戻ってきたことがとても嬉しい。
そのあと私たちは道場から客間へと移動した。
話は単刀直入に始まった。
「志々雄が京都で暗躍している」
志々雄という聞きなれない人物に首をかしげる。
その人のことを説明してくれたのは緋村さんだった。
志々雄真実。
緋村さんが"遊撃剣士"の役を負い、新撰組などと闘うために裏から表へと出たあと、"影の人斬り"受け継いだ人だという。
簡単にいうなれば人斬り抜刀斎の後継者。
完全に影に徹していたためその人の存在を知る人は少ないと言う。
緋村さんも直接あった事は一度もないらしい。