第1章 新たな物語
私は大きく息を吸って吐いた。
どの時代も変わらない。
平成の政治家も自分に都合が悪くなると姑息な汚い手を使う。
嘘ばかりが飛び交い、自分に都合のいいことしか行おうとしない。
『今も昔も自分たちの都合で暗殺や抹殺というのは何かおかしいのではないでしょうか。今も昔も私たちは貴方たちの駒ではありません。都合のいい駒として扱わないでほしい』
「大久保卿。今あなた方がが"人斬り抜刀斎"を必要としていることはわかりました。けど、剣心は今人斬りじゃないんです。私たちは絶対に剣心を京都へ行かせません」
剣心さんはぐるりと私たちを見渡した。
話し合いなんてしなくてもみんなの気持ちは一つだ。
剣心さんを人斬りになんてさせたくない。
あの頃とは違うのだ。
「一週間考えてくれ。一週間後の"五月十四日"返事を聞きにもう一度来よう」
そう言って、大久保さんは立ちあがり背を向ける。
その背中に緋村さんは声をかけた。
「十年前より随分やつれましたね」
「旧時代を壊す事より新時代を築く方がはるかに難しい。そういう事だ」
踵を返して大久保さんは神谷道場を出て行った。
私たちはその後目を覚ました左之助さんの手当てをしたり軽く破壊された道場の掃除をしたりした。
落ち着いた頃には日付は変わっていた。
水を飲もうと台所へ行く途中、緋村さんの部屋から灯りが漏れているのに気が付いて、そこへ向かう。
彼は襖に背を預けて何かを考えこんでいるようだった。
『あの』
「殿……」
『隣、座ってもいいですか?』
「いいでござるよ」
緋村さんの了承を得て私は人一人が座れる距離を取って腰を下ろす。
声をかけたのはいいけど、用事があるような話は一切ない。
気が付いたら声をかけていたという感じだ。
二人の間に長い沈黙が流れる。
「何か、拙者に用があったのでは?」
『あ、えっと……。たいした用事はなくて、ただ気が付いたら声をかけてたって感じで……。すいません、迷惑でしたね」
口に出してみるとなんて迷惑なのだろう。
用事もないのに声をかけて挙句隣に座るだなんて。
居心地が悪くなって部屋から出ようと立ち上がると腕を掴まれた。
驚いて彼を見ると優しい笑みが私を見ていた。
私は何も言えず、その場に再び座り込んだ。