第3章 決断
「あの、緋村さん。三島さんを見ませんでしたか?」
「三島?」
「ここに放った俺の部下だ。そいつから志々雄がいると連絡が入ってな。討伐隊の京都到着までまだ時間があるから少し足を伸ばしたわけだ」
「まさか……あの少年の兄は警視庁の密偵……」
少年というと、先ほど泣き崩れていた少年だろうか。
なんとなく理解した。
三島さんは密偵でこの村に入ったが、正体がばれたのだろう。
それでせめて家族だけでも守ろうとして、殺された。
「馬鹿な男だ。俺の到着を待っていればいいものを」
その言葉に私は耳を疑った。
先ほどまで信頼していたような口ぶりで彼のことを語っていたのは嘘だったのだろうか。
斎藤さんを睨んだ時、目の前に広がる景色に息を呑んだ。
私は緋村さんとの再会にしか目が言ってなくて新月村の全体を見ていなかった。
体中ずたずたに切り刻まれたふたつの遺体が、まるで見せしめのように無残に吊るされていた。
少年の両親だという遺体に私は声が出なかった。
子供たちが逃亡した責任は両親が背負うべきというくだらない理由で処刑したらしい。
「早く降ろして、弔ってやろう」
吊るされる両親の前で、握り拳を作る少年の背中が今にも崩れ落ちそうで、緋村さんの言葉に異を唱えることはできなかった。
「待て!」
だけど、遺体を降ろすことに反対の人たちがいた。
新月村の人たちだ。
勝手に遺体を降ろしたら志々雄の直属の配下である"尖角"の怒りに触れ、自分たちの命も危うい。
それが村人の意見だった。
尖角に逆らえば死、だけど従えば生。
言い分はわかる。
わかるけど、どうしてこんなにも胸がモヤモヤするのだろう。
「これ以上、事を荒立たせぬよう村のためじゃ。お前等他所者と三島の者はこの村を出ていってもらう。栄治、いいな」
村長と思われるおじいさんがそう言うけど、何も納得できない。
両親と兄を亡くしたこの少年はこれからどうやって生きていけばいいというのか。
野放しにして生きていけるほどこの世の中は平和じゃない。