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るろうに剣心【京都編】

第3章 決断




そんな村人達に怒りをあらわにする少女の頭を斎藤さんが掴む。

「自分の命を懸けてまで人間の誇りと尊厳を守ろうと出来る者などそうはいないもんだ。ただ生きるだけなら家畜同然。誇りも尊厳も必要ない」

三島さんは前者だ。
斎藤さんはそれをわかっているからそう言ったんだ。
それがわかって私はさっきの馬鹿だと言った発言の意味も何となく分かった。

村の人たちがそれでも遺体を降ろすなと抗議を続ける中、私は短剣を手に取った。
遺体の前まで行き、私はその縄を勢いよく切った。
吊るされていた遺体を地面にゆっくりと寝かせる。

「何をするんだ!!!」

村人の非難の声が聞こえるけど、今の私にその言葉を聞く余裕などない。
目の前の死体を見て、自分の死んだときの記憶が蘇りそうになる。
視界が揺れる。
倒れそうになる一歩手前、緋村さんが優しく私の肩を抱いた。
たったそれだけのことだ。
それだけで、とても安心した。

「これが、この村の現状だ。そしてこれが志々雄が造る新時代の、日本の姿だ」

斎藤さんは緋村さんと私に向かってそう言う。
人は暴力の恐怖に弱く、その統制下ではただただ生きる事だけが目的となって誇りも尊厳も失ってしまう。
恐怖政治で日本を造り上げようと言うのだろうか。

「斎藤……、政府は本当にこの村を見捨てたのか」
「この村だけじゃない。既に10の村が見捨てられ志々雄の領地になっている。警察は既に"村の奪回"からは手を退いている」

斎藤さんは言った。
軍隊を使っても政治家が承諾しないと。
理由は簡単で、誰もかれもが大久保さんの二の舞を恐れているからだと。
軍隊を使えば村の奪回はできるが、そのあと"暗殺"と言う報復は必至。
政府もいわば人間。
我が身がかわいいがゆえに"問題は誰かがどうにかしてくれるだろう"と他力本願だと言う。

「だからこそ今、俺やお前が必要なんだよ」

政府も警察も当てにならない。

「志々雄の館の場所はわれている。京都より早まったが行くか」
「ああ」

そして緋村さんと斎藤さんは、私たちに背を向けて行ってしまった。
彼らの姿が見えなくなるまで私はずっとその背中を見つめた。
どうか無事に帰ってくるよう、祈りながら。


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