第3章 決断
「私は緋村さんが京都に行くことに反対はしませんでした。志々雄真実がやろうとすることを誰かが止めなければいけないのなら、それが緋村さんにしかできないことなら言った方がいいと思ったんです。だから、私は薫さんの道場で帰りを待っていたほうがいいのかなって。……でも、それはとても悲しくてつらくて苦しい。自分の本心がわからない」
気が付くと泣いていた。
「京都に行くべきだ」と彼に言っておきながら、本当は京都に行ってほしくなんてなかったのかもしれない。
ただ、誰よりも彼の理解者になりたくて、悩んでいる彼の背中を押したくて、彼の悩んでいる一部分が軽くなったんじゃないかとか勝手な憶測をして……。
薫さんや左之助さんみたいに素直に「行かないで」と言っていたらなにか変わっていたのだろうか。
夢の中で見た緋村さんの背中は遠くて、もう会えないかもしれないという不安が胸を掻き毟る。
「ずるいわね」
凛とした声が部屋に響く。
滲む視界で、恵さんの視線が強く刺さる。
「そうやってどっちつかずの態度をずっと続けていくつもり?自分の本心を隠していい顔をして、結局は傷ついて陰でずっと泣き続けるだけの弱虫のくせにかっこつけるんじゃないわよ」
「……恵さんはあの日の夜を知らないから私の気持ちなんてわからないんですよ。緋村さんが薫さんに別れを告げたあの光景を見ていないから……」
やさしく薫さんを抱きしめる緋村さんの姿は今でも鮮明に思い出せる。
「それはお互い様よ。面と向かってさよならを言われたあの子もそれを目撃した貴方も、さよならすら言われなかった私も誰も自分以外の気持ちなんてわからないわ」
恵さんは大きく息を吐いて、私の隣に座った。
「選択肢は簡単よ。剣さんにもう一度会いたいか会いたくないか。ただそれだけよ」
それだけ言うと、恵さんは立ちあがり部屋を出て行った。
「本当はその傷で無理をしてほしくないんだけど、どうせあなたのことだから言っても無駄でしょう。選択肢はもう決まっているはずよ」