第3章 決断
部屋を出て行く恵さんは、泣いていたような気がする。
本当は恵さんもすぐに京都に行きたいんだ。
だけど、自分がやらなくちゃいけないことをわかっているから行かない。
緋村さんが恵さんに生きる道を示してくれたことだから。
私は立ちあがり、部屋を出た。
布団の横に置いてあった愛用の短剣を持って。
外へ出ると、空はもう真っ暗で満天の星空だった。
今から京都に向かうとして、いつごろ辿りつけるんだろうか。
そんなことを考えていると、頭上から声が聞こえた。
「斎藤さん……」
壁に寄りかかって腕組みをしているのは元新撰組三番隊組長の斎藤一さんだった。
何でこんなところにいるんだろう。
「お前も京都に行くのか」
"も"ということはきっと薫さんたちも京都に行ったんだ。
私にできることは少ない。
だけど行かないで後悔だけはしたくない。
「足手まといになるとわかっていてもか」
「……はい」
「どいつもこいつも……」
斎藤さんは大きなため息を吐いた。
きっと斎藤さんは京都に行かせたくないのだろう。
緋村さんが一人で京都に行ったのは私たちを巻き込ませたくないため。
なのにその気持ちを踏みにじって京都に行くのだ。
もしかしたら迷惑かもしれない。
足手まといになるかもしれない。
そんなこととうの昔にわかっているけど、京都に行くのはみんな同じ。
もう一度緋村さんに会いたいから。
「あの、斎藤さん」
「なんだ」
ぎろりと睨まれる。
仕事増やしてごめんなさい。
私は申し訳なく思いながら口を開く。
「京都に行くにはどうしたらいいのでしょう」
この時代、新幹線も夜行バスもない。
歩くしか方法がわからなくて、だけど京都に行く道なんてわからなくて聞いてみれば、何とも分かりやすい反応をもらった。
「貴様は京都に行く方法も知らず抜刀斎を追いかけようとしていたのか」
「そのようです……」
「阿呆だな」
「おっしゃる通りです」
再び大きなため息を吐く斎藤さん。
溜息を吐きたいその気持ち、ものすごくわかる。
私も私が情けない。