第2章 別れ
息が荒い。
脇腹から流れる血は止まることなく地面に広がる。
頭がくらくらする。
血が足りていないことが嫌でもわかる。
だけどここで気絶する訳にはいかない。
私は壁に手をついてゆっくり立ちあがる。
一歩一歩歩くたびに傷が痛む。
緋村さんは大久保さんを殺害したのが志々雄真実の仲間だと知っているだろうか。
きっと彼のことだ。
私が言わなくても彼は全部理解しているに違いない。
そして理解したうえで緋村さんは京都に行くだろう。
彼はそう言う人だ。
だから私は道場に戻って薫さん達にこのことを言おう。
彼女たちもきっと理解してくれるはず。
道場までの道のりはそう遠くないのに、とても長く感じる。
途中、休み休み歩いていたせいもあって道場に辿りついたのはもう日が暮れた頃だった。
玄関の前に薫さんがいて、きっと緋村さんの帰りを待っているんだろうなと思った。
『かお……』
彼女の名前を呼ぼうとしたけど、言葉が喉の奥でつっかえた。
緋村さんがいた。
神妙な顔つきの彼に戸惑いを隠せない薫さん。
私は咄嗟に木の陰に隠れた。
盗み聞きをするのはよくないことだってわかってる。
でも、私はここにいてはいけない気がした。
「拙者は京都に行くでござるよ」
わかっていたはずだった。
彼が京都に行くということは。
このまま野放しにするはずがないという事。
だけどなぜだろう。
わかっていたはずなのに、心臓が痛い。
緋村さんは言った。
神谷道場で過ごしていた時は心休まる時が続いていて、人斬りから一介の剣客になれると感じていた。
だけど、先日の斎藤さんとの決闘で緋村さんの心の奥底には、決して変わることのない狂気の人斬りが住んでいると。
「でも、すぐに戻るじゃない!どんなに抜刀斎近くなっても剣心は剣心のままよ!刃衛の時も斎藤の時も同じくそうだったじゃない!大丈夫……」
「違うでござるよ……」
薫さんの言葉を遮って緋村さんは言う。
刃衛の時は薫さんを助けたい一心で抜刀斎立ち戻り彼女の声で元に戻った。
だけど斎藤さんの時はただただ闘うためだけだった。
「薫殿の声は全く届かなかった。決定的に違うんだ」