第2章 別れ
そこにいたのは端正な顔立ちの少年。
反射的に私は腰から短剣を抜いた。
「あれ。女の子がいるなんて情報はなかったけどな」
にっこりと笑う少年に私の背筋が凍る。
なんだろう、この人。
気持が悪い。
「君に用はないんだけどな」
気付いたら目の前に刃先が伸びていた。
それを短剣で咄嗟に受け止める。
「へえ。反応いいね」
『大久保さん、今のうちに逃げてください……!』
「あ、ああ」
「逃がしはしないよ」
少年はそう言うと、目に止まらぬ速さで大久保さんの胸に脇差を刺していた。
私は自分の身体が宙に浮いているのを感じながら何が起きているのかわからずにいた。
気が付いたら地面に叩きつけられ、馬車は遠のいていた。
『大久保さん!!』
どんなに叫んだって私の声はもう届かない。
どうしたって歴史は変えられない。
それはわかっている。
だけど、護ると決めたのに護れなかった自分の力不足に腹が立つ。
私は壁に寄りかかって座り込む。
左の脇腹がズキズキと痛むと思ったらいつの間にか私は脇腹を刺されていたらしい。
しばらくすると大久保さんが暗殺されたと号外新聞が回ってきた。
大久保さんは石川県士族を中心とした7人の暗殺団に殺されたと書かれていた。
それを見て気がついた。
そうか、あの少年は志々雄真実の仲間だったのかと。
痛む脇腹を押さえ私は歩き出す。
神谷道場へと戻ろう。
大久保さんが殺された。
しかも志々雄真実の仲間の手によって。
それを緋村さんは見逃すはずがない。
薫さんはきっと悲しむな。
壁を支えとして歩いていると、目の前に先ほどの少年が現れた。
私は咄嗟に短剣を手にする。
脇腹の痛みに顔をゆがめると少年は変わらない笑顔で、
「まだ死にたくないなら、志々雄さんに刃向わないほうがいいですよ。勿論僕にもね」
少年はそれだけ言って私の横を通り過ぎる。
後ろを振り返ったが、もうすでに少年の姿はなくて私はその場に倒れ込んだ。