第2章 別れ
走って走って走って。
紀尾井坂へと着いたが馬車人一人見当たらなくて、もう手遅れだったかと諦めかけた時、馬車の音が聞こえた。
馬車はどうやら私の方へと走ってくる。
よかった間に合ったと安堵の溜息を吐いた。
問題は大久保さんにどうやって伝えるか。
その前に会ってくれるかどうかが問題ではあるけど。
そんな私の考えは意味をなさなかったようで、馬車は私の前で止まった。
扉が開いて、大久保さんが中から顔を出す。
「君は緋村のところの子だね。ちょうどいい。緋村に会いに行けるのは夕方ごろだと伝えてくれないかね」
『大久保さん。私、大久保さんに伝えなきゃいけないことがあってここに来たんです』
「伝えなきゃいけないこと?……とりあえずここではなんだから中へ入りなさい」
私は一度だけお辞儀をして馬車の中へと入り、大久保さんと向かい合わせになるように座った。
馬車は彼の一言で再び走り出す。
「私に伝えたいこととはなんだね?」
改めて言われるとなんて言えばいいのかわからない。
今日貴方は暗殺されますって言えばいいの?
でもそんな信憑性のないこと信じてもらえるだろうか。
だけどこのまま悩んで時間だけが過ぎてその時間になってしまっては意味がない。
『あの、信じてもらえるかどうかはわかりませんが私あなたのこの先の未来を知っています』
「……私の未来?」
「はい。あなたはこの先暗殺されてしまうんです。だからこの一時の時間だけでいいので私に護らせてください」
私は頭を下げた。
どこまで信じてもらえるか。
もしかしたらわけのわからないことを話す奴と思われてしまうだけかもしれない。
「そうか。なら私を護ってくれるか」
にこりと笑う大久保さん。
下げていた頭を上げて彼を見る。
『し、んじてくれるんですか……。こんな信憑性のないこと』
「君が嘘をついているようには見えなかったからね」
『あ、ありがとうござ―――……』
お礼を言おうと口を開いたその時、馬車の扉が静かに開いた。