第1章 新たな物語
沈黙が二人を包む。
『……なにか困りごとでもあるんですか』
「え?」
「何か、考えているように見えたので』
なんとなくわかる。
きっと先ほどの志々雄真実のことだろう。
私は緋村さんに人斬り抜刀斎に戻ってほしくない。
「少しだけ悩んでいるでござる。このまま志々雄真実を野放しにしていいものか。だが、志々雄を倒しに京都へ行ったら拙者は再び人斬りに戻ってしまうでござる。それを考えると何をすればいいのかわからなくなってしまったでござるよ」
流浪人か人斬りか。
天秤にかけた時きっと緋村さんは流浪人を選ぶ。
だけど、人の命がかかっていたらそれは別だろう。
不安定な気持ちを抱いているのは目に見えてわかる。
何を言えばいいのかわからない。
わからないけど緋村さんは今本音を話してくれた。
だったら私も本音で話そう。
『私は、緋村さんは京都に行くんだと思っていました』
「……」
『暗殺するかどうかはわからないけど、それでも志々雄っていう人の所に行って倒すものだと。日本の未来云々というより、野放しにしていつか勢力が拡大して薫さんや弥彦君、恵さんたちが危険な目に遭うくらいなら、その前に倒そうって思っているものだと思っていました。緋村さんが恐れているのはきっと自分が人斬り抜刀斎に戻って薫さん達に危害が加わるかもしれないということですよね。私は人斬り時代の緋村さんは知らないけど、でも緋村さんは緋村さんだし、それ以上でもそれ以下でもないというか、あれ、私何が言いたいんだろう……』
だんだん言いたいことがまとまらなくなって私は恥ずかしくなって下を向いた。
私が言いたいのは、人斬りだろうが流浪人だろうが緋村さんは緋村さんで変わらないと言う事で。
『過去とか未来とかそう言うの私こだわらないというか、大事なのは今だと思っています。だから緋村さんは一週間っていう短い期間だけどたくさん悩んで自分の納得のいく答えを見つければいいと思います。私はそれに口出しする権利はないし、きっとその答えに私も納得すると思うんです。言いたいこと、めちゃくちゃですね。すいません』
なにがなんだかわからなくて、私は部屋を飛び出した。
すると名前を呼ばれて立ち止まる。
「ありがとう」
なぜお礼を言われたのかわからない。
お礼を言われるようなことはしていない。
だけど、たった5文字のその言葉がとても嬉しかった。