第10章 はじまりのうた(吉野)
「紗友~。そろそろ起きろー。」
飲みかけのコーヒーカップをベッドサイドのローテーブルに置き、布団を剥がす。
ベッドの真ん中には丸くなって眠る紗友。
「ネコみてーだな…」
肩を軽く掴み、揺する。
「おーい。起きろー。」
一向に起きる気配が無い…。
「ったく…。世話が掛かる…。」
俺はガバッと紗友に覆い被さり、額、瞼、頬、鼻、唇と軽くキスをする。
「んー…」
覚醒し始めたか?
キスを止め、耳元でトーンを下げて囁く。
「起きないと……襲うぞ…」
「っ!」
「痛ぇ…」
いきなり振り返る紗友と額がぶつかる。
「っ痛ぇ……本当に石頭だよな…」
ぶつけた額を擦り、眉をしかめる。
「ごっ…ごめんなさい!」
「いいよ。もう慣れたから…。」
「それより…」
俺は自分の唇を人差し指で指さす。
眉を寄せながら、肩をすくめて恥ずかしそうに俺を見る。
「だーめ。ほら。」
顔をズイッと近付ける。
「紗友おはよう。」
「おはようございます…。」
そう言って俺の頬に手を添えて、そっとキスをする。
「コーヒー飲んだんですか?」
「あぁ。飲むか?」
コクッと頷くのを確認し、
ローテーブルに置いたカップを手に取りる。
そして、コーヒーを口に含む。
ニコッと笑うと紗友は、何かを察知したように後ろに下がる。
そんなこと許さないけどな?
俺は右手で紗友の手を引き寄せる。
空いた左手で頭の後ろに手を添え、紗友の口内へ含んだコーヒーを流し込んだ。