第10章 はじまりのうた(吉野)
「よっちんさん。おはようございます!」
「あー。…はよ。」
数時間前まで、一緒にいたのに律儀だよな。
紗友は、俺のカノジョ。
付き合って、数ヵ月。
2人の時は、名前で呼んでくる紗友。
でも、現場では付き合う前の『よっちんさん』呼び。
あいつの気遣いだから、俺も現場では今まで通りの対応をしている。
「お前らって、付き合ってんだよな?」
「そーだけど。」
「何で、そんなに他人行儀なの?」
「あいつがそうしたいって言うんだから、それに合わせてるだけだよ。」
「ふぅ~ん。」
となりにいた岸尾だいすけが片肘をついて、口をとがらせる。
「よく我慢できるね。」
「大人だからね。」
自分に言い聞かせるように呟き、俺は手元にあった雑誌を手に取り視線を落とした。
俺だって、もどかしいんだよ…。
もちろん言わない。
大人だからね(笑)