第1章 my life (柿原)
ブォー…
ソファに正座し、床に座る徹也さんの半乾きの髪を乾かす。
手ぐしを入れて、髪を揺らす。
最近髪を切ったせいか、前に乾かした時より指に絡まない。
「徹也さんの髪って、柔らかいんですね。」
「んー?そうか?」
「前の時は柔らかいから指に絡んじゃったんですよね。」
「よく分かんねーけど。」
「そう言えば、今度ライブですよね?順調に進んでます?」
「んーー。時間が足りない。」
「そうですよね。ついこの間までツアーでしたもんね。」
話し終えると同時に徹也さんが私を仰ぎ見た。
「な?何でライブ来なかったんだよ。」
少しトーンを下げて話し掛ける。
「え………」
突然の問いに言葉が出て来なかった。
目が泳ぐ。
「えっと…」
何か言わなきゃ。
「ライブは、徹也さんが沢山の人とデートする場所なので、私は遠慮しました!」
「…………」
怒ったかな…
我ながら変な言い訳…
「クックッ…」
徹也さんの肩が揺れてる。
「!?」
「ヤベー腹痛ぇー。あんまり笑わせるなよ。」
「クックックッ。もう少し気が利く言い訳をしろよな。」
「ヤベー。アハハハ…」
「………」
今度は私が黙る番。
抗議の視線を送る。
「そんなに怒るなよ。」
そう言って、私の座っている隣にピョンと飛び乗る。
私の頬に触れて、顔を覗き込む。
「意地悪してごめん。」
「紗友にライブを見て欲しかったんだよ。」
「紗友にも緑の光に包まれる景色を見せたかったんだよ。」
「徹也さん…」
「ごめんなさい。」
「行きたかったけど…行って良いのか迷ったの。」
「沢山の人に愛されている徹也さんを自分の目で実際見るのが怖かった。」
「紗友…」
「不安にさせてごめん。」
額と額をくっつけて、私の髪をなでる。
「意地悪してごめん。」
今度は鼻先と鼻先を触れる。
「応援してくれる人達ももちろん大切だけど」
唇と唇が軽く触れる。
「紗友の事も大切だよ。」
「分かってます…沢山の人に応援してもらえる徹也さんも含めて私は…」
「うん。オレは分かってるよ。」
そう言うと私達は口づけを交わした。