第32章 wolf(八代)
指定のカフェで頼んだカフェラテ。
時間はとっくに過ぎてるけれど…
それでも帰らないのは……
急に暗くなる手元。
横から聞こえる少し上がった呼吸音。
「はぁはぁはぁはぁ…」
「ごめんなさい!」
振り向けば、横に立つ背の大きな男性。
「あ…紗友さんですよね。」
「西山です。」
数時間前にステージでキラキラしてた人の一人。
「えっと…初めまして。」
「来てくれて本当にありがとう。」
「それから。無理言っちゃって、ごめんなさい。」
何度も頭を下げる西山さん。
「西山さん。そんなに謝らないで下さい。」
「私。たくちゃんに会えるのが、すごく嬉しいんです。」
「えっと……ちゃんと会えるんですよね?」
若干不安になって聞き返してしまう。
「もちろん!」
「じゃあ、とりあえずロビーまで移動してもらっても大丈夫ですか?」
そう言ってカフェのスタッフさんを呼び寄せ、会計を済ませる。
動きがスマートで、やっぱり業界の人はこう言うこと手慣れてるのかな?
もしかして、たくちゃんも?なんて。
「すみません。お支払いします!」
立ち上がると背の高い西山さんの表情はうまく伺えない。
「いいのいいの。」
「無理言った上に遅刻したお詫びにここはボクに出させて。」
「さぁ、行きましょうか。」
屈まれると咄嗟に体を引く。
「あっ…驚かせちゃって…ごめんなさい。」
困ったように眉を寄せて、笑う。
歩き始めた西山さんの背中を追いかけ席を立った。