第32章 wolf(八代)
席で帰る準備を整え立ち上がるとスタッフさんから声を掛けられた。
「紗友様ですか?」
突然名前を呼ばれて、驚きで固まる。
「あ。はい。」
「こちらをお預かりしておりました。」
差し出された四つ折りの手紙らしきもの。
手に取ればホッとしたように表情が緩む。
「では、失礼致します。」
軽く会釈をしてくるりと向きを変えて、人ごみへ消えていった。
手紙らしきものを開いて、中を見る。
『紗友さんへ。』
『初めまして。』
『驚かせてごめんなさい。』
『ステージからたっくんの横で手を振った西山です。』
『たっくんを驚かせたいので協力して欲しいんです。』
『可能だったら○時に○○ホテルのロビーのカフェで待っててもらえますか?』
『時間も遅くなっちゃうので、帰りは手配します。』
『では、指定の場所でお待ちしてますね。』
『西山宏太朗』
手に持つ手紙を咄嗟に閉じて隠す。
「これって…」
「行かないって言う選択肢は無いよね。」
「連絡先も書いてないし。」
「たくちゃんに連絡したら西山さんに申し訳ないし。」
どんどん自分を納得させる理由を並べる自分に笑う。
だって…
会いたいんだもん。
振り返りステージを見返す。
たくちゃんは、やっぱり違う世界の人だって実感したステージ。
キラキラしてて。
ニッカリ笑う顔が眩しくて。
もう手が届かない人かもしれないからこそ。
縋り付きたくなっちゃうのかもしれない。