第31章 aquarium(中村)
通り過ぎる街頭。
追いついたり、追い越したり。
そんな景色を見ながら隣りでハンドルを握る中村さんの姿を反射する窓ガラスで盗み見る。
こうして運転する姿を助手席で見られるなんて。
夢なら醒めないで欲しい。
「なぁ?」
その声に引き寄せられれば、これが夢じゃないと教えてくれる。
「はい?」
「お前は覚えてないかもしれないけど。」
少しボーッとする頭の中を中村さんの言葉がグルグル巡る。
始まった会話に身構えてしまうのは、何かを期待してるのか。
それとも恐れ?
大切なことを忘れてる?
輪郭の見えない会話を予想しても、全く検討がつかない。
次に発せられる言葉に身構えるしか出来ない自分に嫌気がさす。
それでも視線は外せない。
外せないと言うより外したくない。
そう。
少しでも貴方を見ることが許されるのならば、いつまでだって見ていたいから。