第27章 sound(櫻井)
ポツリポツリと降り出した雨。
収録の空き時間に所要を済ませに歩く駅前。
時計を見れば、まだ余裕のある時間。
空を見ると雲の合間から洩れる光。
「天気雨。」
目の前にあるファストフード店が目に留まり歩みを進める。
「少し雨宿りでもするか。」
雨を縫うように歩いて店内へ。
肩と腕に付いた雨粒を軽く払った。
平日の中途半端な時間のせいか注文待ちの客はいない。
「いらっしゃいませ!」
「ブラックコーヒー1つ下さい。」
「えっと…」
あー。マスクをした上に声が低いせいか意識しないで話すと聞き取れない事が多いらしい。
もう何回目か……
「ブラックコーヒー」
少し声量を上げて言えば八の字になる眉。
その顔に見覚えがあった。
ネームプレートを見て確信に変わる。
先週出会った女のコ。
よく笑うコで。
見てるだけで気持ちが晴れる。
そう言えば、この駅の店舗で働いてるとは言ってたけど。
まさか。こんなに早く出会えるなんて。
雨に感謝したいよ。
チラッと外を見て視線をカノジョに戻す。
「えっと。桐島さん?」
「え?」
掛けていたマスクを外し再度顔を上げる。
「ここで働いてだんだね。」
キョトンと俺を見つめる女の子。
「あー。ごめん。名乗りもしないで…」
「櫻井です。この前飲み会で一緒だった。」
「覚えて無いかな?」
そんな会話をしていれば、他のスタッフから刺すような視線を感じる。
「おっと。ごめん。仕事中だね。」
「ブラックコーヒー1つ下さい。」
「持ち帰りで。」
「あっ!はい。畏まりました。」
背後で準備を終えたスタッフがカップを渡す。
「お待たせ致しました。」
営業スマイルだろうけど、ニッコリ笑うだけで重苦しい空気が軽くなる。
「砂糖とミルクはお付けしますか?」
「……いや。いいよ。ブラックだからね。」
俺がそう言えば、恥ずかしそうに俯く。
「さっき、ブラックコーヒーって仰ってましたよね。すみません。」
ペコッと頭を下げて俺を見つめる。
言わなきゃ良かったかな。
ちょっと意地悪したくなっちゃって。
「いやいや。こっちこそ、ごめん。ありがとう。」
笑ってみれば逸らされる視線。
何かさ複雑な気分だよね。
笑って逸らされるって……。