第25章 obediently(入野)
「あー。疲れた。」
日付が変わる少し前。
ブツブツ呟きながら、自宅マンションの入口へ向かう角を曲がった。
植え込みに軽く腰掛ける人の姿を確認。
こんな時間に…不審者?
眉を寄せながら、一歩一歩近づき目の前を通り過ぎる。
視界の端で確認する姿。
太ももに肘を付けて、体の前で指を絡める。
キャップにパーカー。
ダークレッドのデニム。
顔は伏せてて見えない。
手足が長くて、座ってる姿も様になる。
こんな人が不審者な訳ないか。
ホッと小さくため息を付いて更に一歩歩みを進めた。
滲む視界に戸惑う。
「涙?」
頬に触れれば濡れる指先。
戸惑い歩みを止めると後ろから声が聞こえる。
「090○○○○」
聞こえた懐かしい声。
私は知ってる。
「○○○○」
「何回も掛けたのに出てくれないんだもん。」
「我慢できなくて帰って来ちゃった。」
近づく姿は待ち焦がれた人。
「番号は変わるし、LINEもメールもダメ。」
「俺のこと嫌いになった?」
目の前に立った自由は、私の顔を覗き込む。
「だって…」
「自由が…私を必要としてないと思って…」
「自由こそ私のこと嫌いになったんでしょう?」
震える声に震える体。
「ね?はっきり振ってくれていい。」
「本当は聞きたくなかったけど、ちゃんとサヨナラしないとね。」
溢れる涙。
もう拭わない。
もう。我慢なんてしないから。