第18章 dish(増田)
今日は、予定より少し早めに仕事が終わり帰り道もスムーズで自宅に到着。
エレベーターで目的の階を押し、扉を閉める。
一分一秒だって早く会いたい。
カウントするモニターを見つめて、
「早く着かないかな。」
独り言を呟いて苦笑する。
スマホを取り出し、画面をなぞれば未送信のメッセージ。
『思ったより早く帰れそう。』
『あと30分くらいで着くかな?』
「あ……送れてなかった。」
「まぁ、いっか。」
鍵を取り出し、ガチャリと開ければ暖色の照明が迎えてくれた。
足元には、紗友の靴。
朝と違う。
何処か出掛けたのかな?
キッチンに抜けるドアを開ければ、背中を向けてキョロキョロと首を振る姿に笑ってしまう。
数歩近づき話し掛けた。
「ただいま。」
くるりと向きを変え、俺と向き合うと驚いたように目をパチパチさせる紗友。
「あ。お帰りなさい。」
予想外の『あ。』に悪戯心に火が付いた。
「『あ。』って何?」
顔を傾け問いかければ予想以上の反応に自然と緩む口角。
「えっ…いや…その…」
あたふたしながら鍋の蓋を閉める紗友。
「何?何?何??」
ちょっと意地悪するかな?
スッと近づき腰に手を回し、トーンを落として耳元で囁いてみる。
「俺には言えない事?」
顔を近付け、唇を親指の腹でなぞり、顎を引けばみるみる赤くなる頬。
予想通りで笑ってしまうよ。
さすがに笑ったら、怒られるかも…
見えないように視線を落とす。
そして、今後の展開を予想しては自然と舌なめずりをしてしまう。
「ほら?」
「言ってごらん?」
「えっ…と…その…」
どんな答えが聞けるかな?
楽しみで仕方ないな。