第17章 kaleidoscope(津田)
「んー。届かない。」
背伸びをして、手を伸ばす。
「もう少しっ」
今度は片足を上げて、目を瞑り指先だけに神経を集中させる。
本の底に微かに触れる爪。
もう少し!
もう少し!
ん?
先ほどまで感じていた感触が消え、瞼を開ける。
「はい。どうぞ。」
不意に掛けられた言葉にハッとした。
落ち着いた低い声。
スッと入る声に耳に神経が集まる。
ふと視線を移せば、目的の本が差し出されていた。
本を受け取り、顔を上げれば眼鏡を掛けた男性。
目を細めて笑う表情に胸がドクンと脈打つ。
「あっ。ありがとうございます。」
絞り出すように呟くのが精一杯。
もう一度、本を見つめ手に入れられた事に頬が緩む。
「1日中探してて。やっと見つけられた。」
感謝の気持ちを込めて、今度は笑顔を男性に向けた。