第13章 合宿最終日―練習試合―
「…あ、僕、他の手伝いに行ってきます…!失礼します」
礼儀正しく頭を下げて場を離れようとする芝山に、菅原は小さく「気を遣わせてごめんな」と謝った。
いえ、とだけ芝山は答えて駆け出して行った。
「…俺らも、行こう。まだ片付けあるべ」
「おう…」
これ以上黒崎のことについてあれこれ話す雰囲気ではなかった。
東峰は極力黒崎の姿を目に入れないようにして、残された用具の片付けにだけ意識を集中させることにした。
「あ、そうだ!美咲ちゃん連絡先教えてよ」
東峰の思いをよそに、夜久と黒崎は連絡先の交換を始めていた。
アドレスと番号を交換して、夜久はふぅとひと息つく。
「これでもう連絡取れない、なんてこともないな!」
「あ…うん、そうだね」
「手紙が宛先不明で返ってきた時は泣きそうだったんだぜ」
「ごめんね、うち色々あって……」
「いいよ。美咲ちゃんも大変なんだろうってのは分かってたから。それにこうして会えたんだし」
な?と夜久に微笑まれて、黒崎の胸はじんわりと温かくなった。
7、8年ぶりに会ったというのに、幼い頃と変わらずに、自分に接してくれる夜久の優しさが黒崎は嬉しかった。
「やっくん、盛り上がってるとこ悪いんだけど。そろそろ移動始めるぞ」
「おう、了解」
夜久を呼びに来た黒尾は黒崎と目があうと、意味深な笑みを黒崎によこしてみせた。
その笑みの意味はよく分からなかったが、黒崎は黒尾にへらりと笑い返した。
「うちの夜久がお世話になりまして」
「い、いえ、お世話なんて私は何も」
「いやいや君のおかげで今日のやっくんは絶好調だったから」
「そう、ですか?」
「君にいいとこ見せたかったんだろうね~」
「おい黒尾、変なこと言うな!!」
嚙みつかんばかりの勢いで、夜久は黒尾の背に拳を見舞う。
動きを予測していたのかひょいっとそれを避けられて、夜久は悔しさにギリギリと歯を食いしばった。
「ライバルだけど、これからも仲良くしてやってな。こいつ、あんまモテないから」
「うるせー黒尾!!好き勝手言いやがって!!」
「あー怖い怖い」
普段からこんな感じのやり取りをしているのだろう。
言葉の割りに2人の雰囲気は柔らかかった。