第13章 合宿最終日―練習試合―
「じゃあ、またな」
烏野の面々に別れを告げて、音駒のメンバーは帰りの新幹線へと向かう。
新幹線に乗り込むと、疲れもピークに達していた部員達のほとんどはすぐに眠り込んでしまった。
夜久も疲れてはいたが、思いがけない嬉しい再会にいまだ心躍っているのか、喜々としてスマホをいじり続けている。
「烏野の彼女にメールですかぁ?お盛んですね、やっくん」
からかいたくてしようがないといった嫌な笑みを浮かべてそう言う黒尾に、夜久はあからさまに顔をしかめた。
「ほっとけ」
つれない夜久に、黒尾はなおもからかいの声をかける。
「もしかして、初恋の子とか」
「ハァ?!ちげぇし、そんなんじゃねぇし!」
一気に顔を赤くした夜久に、黒尾は図星だったか、とひとりごちた。
「…あいつとは家族同然だったんだよ。色々、複雑な家でさ。よく家で面倒見てたんだ。だからなんか今でも放っておけねぇっていうか」
「ふーん?まぁそういうことにしておくか」
「だから、ホントにそういうんじゃねぇって」
「分かった分かった。みんな起きちまうから、静かにな」
「…ったく……」
それきり黒尾は夜久にちょっかいをかけるのをやめて、他の部員達と同じように眠りについた。
ただ1人夜久だけは、なかなか引きそうにない顔の熱に苦慮していた。
震えるスマホの画面に美咲の名前が表示される度に熱くなる顔に、夜久は自分が幼き頃感じた淡い恋心を意識せざるを得なくなっていた。