第47章 不確かなものだから
大樹のような人だと思った。
初めて会った時の腰の低い、少しの事にも怯えてしまうようなそんな雰囲気は無かった。
どっしりと構えた大きな人。私がいくらぶつかっても、少しも揺らぐことがない。
「前に美咲が言ってくれたことがあったよな。“心はいつも、そばにある”って。
確かに俺が卒業したら、今と同じように一緒に過ごすのは難しくなるかもしれない。住む場所が離れることもあるかもしれない。
だけどさ、それで心の距離が離れるわけじゃない。俺の心はいつだって美咲のすぐそばにあるんだよ」
そう言って太陽みたいな笑顔を見せる旭さんに、私は頷いて返した。
そうだ。
私は何を弱気になっていたんだろう。
命を懸けて烏野に戻ってきたというのに。旭さんのそばにいたいが為に、祖母を傷つけてまで戻ってきたというのに。
一人で勝手に不安になって、悪い方向にばかり想像して。
今、目の前でこれ以上ないくらいに心を示してくれている旭さんを、私は見ていなかった。
先の事は分からない。
誰にも分からないそんな事をうだうだ考えるよりも、今目の前にいる旭さんのことを大事にしよう。
暗澹としていた気持ちがすっきりと晴れ渡っていく。
旭さんのおかげで、澱みに沈んでいた私の気持ちは引き上げられた。
もうこれ以上後ろ向きに考えるのはやめよう。
ごめんなさい、と言いかけてやめた。
謝るよりも感謝の言葉を口にした方がいい気がしたから。
「旭さん、ありがとう。私もう先のことで不安になるの、やめます。旭さんのおかげで、そう思えました。今この瞬間を大事にします」
私の言葉を聞いて、今日一番の笑顔で旭さんが大きく頷いてくれた。