第13章 合宿最終日―練習試合―
それは呼ばれた夜久も同じだったようで、どこかむず痒そうな顔をしていた。
「うーん、なんかその『夜久先輩』ってのはしっくりこねぇなー。いっそ『衛輔』って呼んでくれた方がいいかも」
「分かった。じゃあ衛輔くんって呼ぶね」
「おう!」
普段、誰とでも気さくに話す黒崎ではあったが、それ以上に仲良さげに夜久と話す彼女を見て、菅原はなんとも複雑な気持ちになっていた。
ちらりと東峰の様子を窺うと、彼もなんとも言えない表情で2人のやり取りを見ている。
いたたまれなくなったのか、東峰は片付け途中だった支柱を抱えてその場を離れ始めた。
「これ、片付けてくるわ」
「あっ、僕も手伝います!」
芝山が東峰の後を追っていく。
菅原は黒崎達と東峰達を交互に見やって、少し悩んだ後、東峰の後を追うことにした。
黒崎と夜久のことも気にはなったが、逃げ出すように場から離れていった東峰のことが気になって仕方がなかった。
「おい、旭。いいのか放っておいて」
「…いいも悪いもないだろ、別に」
黒崎の元から足早に去る東峰に、後ろで支柱を支える芝山は息を切らせて必死についてきている。
菅原も支柱の真ん中を支えるように手をそえるも、ほぼ東峰1人で支柱は支えられていた。
「そんなこと言ってていいのか?」
菅原の言葉に、東峰はキッと大きく目を見開いた。
「じゃあどうしろって言うんだよ?!2人の間に割って入れって言うのか?!」
東峰の声に、後ろで支柱を支えていた芝山はびくりと体を硬直させた。
口を挟むことなんて到底出来ないが、不穏な空気に芝山は冷や汗が出っぱなしだった。
「……旭……」
東峰の剣幕に、菅原は言葉を詰まらせた。
そこまで東峰が思い詰めているとは知らずに、彼を追い詰めてしまったことに菅原は申し訳ない気持ちになった。
「悪い。大声出して」
「いや、俺も口出しすぎた。ごめん」
振り返って黒崎と夜久の姿を確認するも、2人にはさきほどの東峰の声は届いていないようだった。
先ほどと変わらず談笑を続けている2人に、菅原は少しだけ安堵した。
けれど唇をぎゅっと噛みしめている東峰を見ると、菅原は黒崎に対して複雑な気持ちになるのだった。