第13章 合宿最終日―練習試合―
東峰に対しても、夜久は同じような感情を抱いていた。
自分と彼女が共に過ごした日々はもう7、8年も前のことで。
その後彼女がどんな日々を過ごしてきたのか、夜久はほとんど知らない。
だから今、目の前で東峰と親しそうに話す彼女がいてもおかしくはないのだ。
どれだけの時間を彼らが積み重ねているのか、夜久には分からなかった。
高校からの付き合いであれば、まだ1ヶ月くらいだろうか。
もしかしたら中学からかもしれないし、それ以前からかもしれない。
そんな期間の長短に関係なく、仲睦まじく会話をする2人の雰囲気に自分が割って入る隙がなさそうなことを、夜久は敏感に感じ取っていた。
小学生の頃、夜久は黒崎と家が隣同士だった。
黒崎の家は少々複雑な事情を抱えていた。
仕事で遅くまで家に帰らない黒崎母の代わりに、夜久の家で黒崎家の子供達を預かることも多々あった。
半ば兄弟のように育ってきた夜久と黒崎だったが、その関係はある日突然に終焉を迎えてしまう。
行先も事情も知らせずに、本当にある日突然、隣家は引っ越してしまったのだ。
もしかしたら大人は事情を理解していたのかもしれない。
けれどその事情は夜久に明かされることのないまま今に至っている。
夜久は黒崎のことをずっと気にはかけていたものの、彼女と連絡を取る手段は無いに等しかった。
黒崎が夜久のそばからいなくなった始めのうちは届いていた手紙も、次第に数が少なくなり、そのうちに来なくなった。
自分から差し出した手紙は宛先不明で手元に返ってきてしまう始末。
携帯なんてまだ持たせてもらえていなかったから、手紙のやり取りが出来なければ、夜久にはもうお手上げだった。
少しずつ夜久の中でも黒崎の存在は薄れていき、次第に思い出す回数も減ってしまった。
それでも幼い頃に彼女と撮った写真は、いつまでも夜久の机の上に飾られたままだった。
夜久が成長した黒崎に気付くことが出来たのは、この机上の写真のおかげかもしれない。
写真の中の彼女は、目の前の彼女のように朗らかには笑ってはいなかった。
自分の知らない数年間の間に、何が彼女に起こったのだろうか。
夜久は何故かそれが知りたくてたまらなくなった。
自分の知らない彼女を、知りたいと思った。