第1章 一枚のビラ
やっぱり、来なければよかった。
何が優越感だ。全くその逆ではないか。
先輩にこんな顔させるんだったら、人を失望させるくらいなら、始めから来なければよかったんだ。
クラスメイトだって言っていたじゃないか、嫌なら断ればいいんだって。
それが出来ずにズルズル流されるって、とってもかっこわるいし、みじめだ。
「…せっかくだから、今日少しだけマネージャーの仕事やってみない?どんな仕事かやってみて、マネージャーをやるかやらないか考えてみて?」
「…は、はい…」
私の発言に気を悪くしただろうに、清水先輩はニコリと笑ってそう言うと、作業の手順を説明し始めた。
正直に心の内を語ってしまった気まずさを感じながらも、今日だけでもきちんとやろうと先輩の説明を必死で聞いた。
大量に並んだドリンクボトルを外に運び出す。
清水先輩はボール出しの手伝い。
この後にはタオルの洗濯、タイムの計測、記録。
マネージャーってもっと楽なものかと思っていたけれど、意外とこまごまとした仕事がたくさんあって、あちこち動きまわるもののようだ。
「これ今まで清水先輩一人でやってたのかぁ…」
改めてすごい、と思った。
周りは男子ばかりだし、美人だからイージーモードとか勝手に思っていたけど、先輩は先輩で頑張っていたんだ。
それも来年は卒業していないんだし、必死に後任のマネージャーを探すわけだ。
「あれ、でも3年生って部活いつまでやるんだっけ…夏…?受験とかもあるだろうしなぁ」
じゃああと半年もしないうちに清水先輩もマネージャー辞めちゃうのかな。
なんてことをぼんやり考えながら、いっぱいになったドリンクボトルを抱えて体育館へと戻る。
汗と熱気がむわっと向ってくる感じがした。
「旭さん!」
声の方に目をやった瞬間、息を飲んだ。
コートの後方から走りこんできた大きな体が、グッとため込んで空を飛ぶ。飛んだと思ったら、振り下ろされた腕、次の瞬間にはボールが矢のように走ってコートに叩きつけられていた。
「旭さんナイス!!」
西谷先輩がグッと親指をたてて旭先輩を賞賛している。
それに応えるように旭先輩も親指をたてた。
「す、ごい」
思わずもれた声に、西谷先輩が振り返る。
「だよな!」
ニッと満面の笑顔になる西谷先輩に、こくこくと何度も頷いて見せた。
「めちゃくちゃかっこよかったです、今の!」