第1章 一枚のビラ
そういえば旭先輩も見た目はちょっと怖い。
けれど田中さんといい、旭先輩といい、実はいい人のようだ。
見た目だけで言えば、今までだったら絶対関わり合いにならない手合いの人達だ。
「よし、じゃあ気持ちも新たに!今日も始めるぞ!」
澤村先輩の一声で、また部員達に緊張感が走ったのが分かった。
先ほどまでの和やかな雰囲気は一変して、ピリリとした空気を感じる。
そんな些細なことにも、私は驚いていた。
(部活やってる人達の集中って半端ない……この中でうまくマネージャーなんてやれるのかな)
今までだって、何かをやりきった経験なんてないのに。
不安からチラリと横の清水先輩に目をやる。
視線に気づいた清水先輩は、ニコッと微笑んで、今日の練習内容を丁寧に説明し始めた。
「新しいことを始める時は、誰でも不安だから。気負わなくても大丈夫。みんな助けてくれるし。もちろん、私も助けるから」
私の心のうちを見透かすように、先輩はそう言った。
この人なら、本当のことを言っても怒ったりはしないだろう。
私がどんな気持ちでこの体育館に足を運んだのか。
何故か妙な確信を持って、私は言葉を紡いだ。
「わ、私…なんとなく流されてここにいるんです。先輩達が期待するような人間じゃないし、なんだか場違いな気がして…」
外にいる時より、はっきり感じる、このむっとする空気感。
どの部員を見ても分かる。
誰もが真剣で、まっすぐで。
私にはそれが眩しすぎて、少し息苦しささえ感じてしまう。
やるからには途中で投げ出したりなんかできない。
そんなことをすれば、彼らを見かける度に、罪悪感を感じるだろう。
けれどこんな半端な気持ちで関わるのも、とても失礼な感じがする。
体育館に入る前と同じように、どっちつかずの中途半端な自分の気持ちに苛立ちを覚えつつ、言葉尻を濁したままうつむいてしまう。
「…私は、無理強いするつもりはないし、他のみんなもそうだと思う。とりあえず、今日だけでも見ていってみて?やっぱりダメだな、って思ったらそれはそれでいいんだよ。黒崎さんの気持ちが一番大事だから」
「……清水先輩……すみません、あんなに一生懸命勧誘してくれたのに、こんな、私が来てしまって……」