第12章 合宿最終日ー試合前ー
「うわー懐かしいなぁ!元気してたか?」
「やくのおにいちゃんこそ!バレー続けてたんだね!」
和やかに会話する2人の姿を、烏野、音駒の両部員達は不思議そうに眺めている。
「音駒に知り合いいんのか、あいつ」
気安くマネージャに声をかけていた犬岡を牽制しに行こうとしていた田中は振り上げかけた拳をゆっくり下ろす。
田中と同じく牽制の姿勢をとっていた西谷も、行き場をなくした拳をそっと戻した。
「おーっと?ライバル登場、って感じじゃん。気をつけろよ、旭。うかうかしてると取られちゃうかもよ?」
「えっ?!ライバル???とられるって、何を」
「はぁ?美咲ちゃんに決まってんだろー」
「?!?!ス、スガ、またそんなこと言う……」
菅原が意地悪そうに笑うと、東峰は困った顔であたふたしだす。
容赦のない菅原の肘鉄が東峰の脇腹に直撃して、くぐもった声が東峰の口から漏れる。
「しっかり掴んでおかないと、あっという間にどっかいっちゃうかもしれないぞ」
人差し指をたてて、菅原が東峰にウインクをしてみせる。
東峰の眉が力なく下がって八の字の形になる。
「……お、おう…」
散々煽ったのは自分なのに、菅原は、その東峰の反応に驚いた。
東峰の返答が、彼の黒崎への想いを認めたものだったからだ。
「えっ…!あ、旭……そうなの?」
思わず菅原は、再度東峰に彼の気持ちを尋ねていた。
けれど今度はそれにハッキリと答えることは、東峰はしなかった。
ただほんのりと赤くなった耳が、彼の本心をそれとなく告げていた。
「頑張れよ、旭」
菅原はそれ以上東峰にあれこれ追及することをやめ、彼の背を軽く叩くのみにとどめた。
東峰が自分の気持ちを自覚したのであれば、あとは2人の問題だ。
今までのように少しだけ手を貸すことはするつもりだったが、必要以上に口出しするのはよくないだろう。
2人が近いうちに想いを通わせることを想像して、菅原は自分のことのように嬉しくなった。
一方、友人に励まされた東峰は、今まで以上に菅原にいじられると思っていた読みが外れてどこか拍子抜けしていた。
アップに向かう菅原の背を追いながら、それが菅原の優しさだと東峰は思った。