第12章 合宿最終日ー試合前ー
校門へ近づくにつれ、真っ赤なジャージの色が鮮明に見えてくる。
烏野の黒いジャージとは正反対の、目にも鮮やかな赤色に、黒崎は目を奪われた。
「今日はよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
武田先生は音駒の監督とコーチに挨拶をして、黒崎に音駒の部員の案内を任せ、音駒の監督とコーチと共に校舎内へと消えて行った。
残された黒崎は少し緊張した面持ちで、音駒の部員達の方を向いて挨拶をした。
「遠いところお疲れ様です!マネージャーの黒崎です。今日はよろしくお願いします!」
ぺこりと彼女が頭を下げると、音駒の部員達の大きな声が響いた。
「よろしくお願いしあーっす!!」
以前だったらこんな大音量の挨拶にびくびくしてしまっていたかもしれないが、バレー部で毎日鍛えられた甲斐あって、黒崎は微塵も動じることなく笑顔を向けることが出来た。
「ではご案内しますね!」
くるりと踵を返して、音駒の部員達の先頭に立って真っ赤なジャージの集団を引き連れていく。
「…なーんか、見覚えあるんだよなぁ?」
「?あの子ですか?」
長身の犬岡が、チームの中では小柄な夜久の顔を覗き込むように問いかけた。
わざとではないとはいえ、身長差を見せつけられたような気がして夜久は少しだけムッとした顔で犬岡を睨み付けた。
「でも黒崎、って苗字じゃなかった気ィするし」
「本人に聞いてみたらどうですか?」
あっけらかんと言う犬岡に、夜久はあのなぁといった顔で答える。
「人違いだったら恥ずかしいだろ」
「そうッスか?」
夜久は犬岡のあっけらかんとしたところに少しだけ羨ましさを感じていた。
先頭を歩く烏野の小さなマネージャーの後ろ姿を眺めながら、夜久の頭の中には小さなころの思い出が蘇っていた。
『やくのおにいちゃん!』
思い出の中の少女は、先ほど初めて会ったはずの烏野マネージャーにどこか似ている。
最後にあったのはもう7、8年も前の事だ。
小学生だった頃から、自分だって随分と成長している。あの少女だって同じだろう。
「他人のそら似、ってやつかなぁ」
「気になるんだったら本人に確かめたらいいじゃないッスかー。なんなら、俺が聞いてきましょうか?」