第11章 合宿3日目
どこか尊敬のまなざしで旭先輩に見つめられて、少し照れくさくなる。
「男は同時に何かやるって苦手、とか言うよな」
「あー言うなぁ」
菅原先輩と旭先輩が何か納得したように頷いている。
「でもバレーの試合だと周囲の様子を見たり試合の流れ考えたりしながら体動かしてるじゃないですか。多分、慣れだと思いますよ?」
「慣れかぁ、なるほどなぁ。黒崎は普段から料理してるの?」
「そうですね。…家は、親が家にいないことが多くて。姉と一緒によくやってます」
「へぇ、美咲ちゃんお姉さんいるんだ?」
菅原先輩が具材を炒め終わった鍋に水をくみながらこちらを見る。
私はこくりと頷いた。
「はい。あと一応、兄も」
「一応って何、一応って」
苦笑しながら縁下先輩がつっこみをいれる。
笑って返しながらドレッシングをボトルに流し込む。
ゆで卵をお願いした旭先輩は手持無沙汰なのか、鍋の中の卵を菜箸でくるくると回転させる。
「じゃあ末っ子なんだね、美咲ちゃん。でも末っ子のイメージなかったなぁー。どっちかっていうと長女っぽい。旭なんかよりよっぽどしっかりしてるし頼もしいし」
「えっ、スガひどい……黒崎がしっかりしてるのは異論ないけど…」
「コートの中ではしっかりしてますけどね、旭先輩も」
「ええっ、とうとう黒崎までそんなこと言うようになっちゃったの…?!?お、俺の数少ない味方が……」
朝はあんなにぎくしゃくしていたのに、今は旭先輩にこんな軽口を叩けるまでになっていることに自分でもびっくりしながら、先輩達と談笑を続けた。
菅原先輩に感謝しなきゃ。菅原先輩のおかげで、旭先輩とも普通に話せるようになったんだと思う。
「さて、あとはルーを入れて煮込めば完成、かな?」
「サラダもゆで卵乗せたら出来上がりですね」
時計を確認すると、夕飯の時間まであと20分くらいだった。
なんとかギリギリ、間に合いそうだ。
「あっ、じゃあ後お任せしていいですか?私、潔子先輩の様子見てきます!」
「おう、頼む。こっちは任せとけ!」
菅原先輩の頼もしい返事に、笑顔でいってきます、と応えた。
結局今日は1日潔子先輩は部屋で休んでいたようだ。
部屋の扉を静かに開けると、横になっていた潔子先輩がこちらに寝返りを打った。