第1章 一枚のビラ
「えっ、いや、だから君は悪くないんだよ!」
「でも旭先輩だって悪くないです」
押し問答をしたってしょうがないけれど、旭先輩があまりにも自虐的だから私もそう言わざるを得なかった。
実際、どっちが悪いとかいう問題ではなかったし。
「それにもう痛みも退いてきましたから。もう気にしないでください」
表情筋に力を込めて、つとめて笑顔を先輩たちにむける。
私の言葉に納得したのか、その話はそれでおしまい、ということになった。
「じゃあ部活始める前に、ちょっと紹介させてもらうな」
澤村先輩にそう言われ、私は小さくコクリと頷いた。
集合!と澤村先輩が一声かけると、それまでバラバラに自主練していたバレー部員達が一斉に駆け寄ってきた。
旭先輩のように大柄な人もいれば、西谷さんのように小柄な人もいて、初めてきちんと目にしたバレー部員達はとても個性豊かに見えた。
「部活始める前に皆に紹介しておく。マネージャー候補の、黒崎さん。黒崎さん、一言お願いできる?」
内心、『候補』といいつつ、この流れはもうマネージャーやること決定ではないのか?!と思いつつ、促されるまま軽く挨拶をする。
「1年の黒崎美咲です。バレーは未経験ですが…よ、よろしくお願いします」
もっといい自己紹介はないものか、と言い終わってから思う。こういう最初の印象って大事なところなのに。
マネージャーやらないならどうでもいいかもしれないけど、多分、流れでやりそうな気がするし…。
「うおおおおおお!!!」
あまりの絶叫に、驚いて下げた頭をおそるおそる上げた。
私をとり囲むようにバレー部員達が近づき、めいめいに何かをわめいている。
その迫力に気圧されていると、清水先輩がずいっと間に割って入ってくれた。
「威嚇、しないで」
「威嚇なんてとんでもないっすよ!!念願のマネージャーじゃないっすか!!」
「よろしくなー!黒崎さん!!」
見た目はちょっと、チンピラっぽい坊主の人がバシバシと肩を叩く。痛くはないけれど、男子にそういうことをされた経験がないので、まだ驚いて固まってしまう。
「田中ー、黒崎さん怯えてるから」
田中さんを制してくれたのは、旭先輩で。