第11章 合宿3日目
深々と烏養コーチに頭を下げる。
確かに武田先生のいない今、大きな怪我とかあったら、監督責任とか色々めんどくさいことになるんだろうなぁ。
コーチや部員にお騒がせしました、と言おうとした時。
旭先輩がずいっと私の前にあらわれた。
「武田先生いないって、どういうこと?」
先ほどまであんなにテンパっていた旭先輩とはまるで別人のようだった。
普段でもあまり見たことのないキリッとした表情で、旭先輩は私の返答を待っていた。
「え、急用ができたそうで外出されて」
「じゃあ、1人で料理してたのか?」
「は、はい」
どこか詰問されているような感じがして、ばつが悪くて俯きながら答える。
「あのさ」
一呼吸おいて、旭先輩が言う。
「1人で全部やろうとするなって俺、言ったよな?」
「……」
「言ったよな?」
「…言い、ました」
「じゃあなんで黙って1人でやってたんだ?今、頼るべき時じゃなかったのか?」
「……練習の邪魔をしたくなく、て」
「それでお前が怪我したら意味ないじゃんか。大地も言ってただろう、『遠慮なく言え』って。なんで頼るべきところで頼らない?……そんなに俺ら頼りないか?」
いつもの旭先輩とはまるで別人みたいだった。
少し強い口調で私にせまる旭先輩を、菅原先輩や烏養コーチがなだめにかかる。
「おい、そんなに詰め寄らなくても…」
「……あ…ご、ごめん……」
菅原先輩の言葉に、旭先輩がしゅん、と小さくなった。
けれど眉間に寄った皺はそのままだ。
こんな風に旭先輩に叱られたのは、初めてで。
そんな風に叱られると思ってはいなかったから、少し気が動転してしまう。
怖かったわけじゃない、ただ旭先輩にそこまで言わせてしまったことが申し訳なくて、涙が浮かんでくる。
「っ、ご、ごめん…!!な、泣かないで…」
旭先輩が泣き出しそうな私を見て、びっくりして慌てだす。
それはいつもの旭先輩で、ちょっとだけ安心する。
「旭ー、そりゃあんな顔で凄まれたら美咲ちゃんだって怖いって…。泣かせたのお前だろ…」
慌てふためく旭先輩に、菅原先輩がそう毒づくと、また旭先輩は困った顔でごめん、と私に言うのだった。
「いえ、私こそごめんなさい…。旭先輩に言われたばかりだったのに。今日は品数も少ないし1人で出来るかなって思っちゃって…ちょっと無理しました」