第11章 合宿3日目
量は多いけど、今日は作る品数は少ない。
なんとかなるさと楽観的に考えて、とりあえず調理にとりかかることにした。
山積みになった野菜と格闘して、もうあと少しで切り終わるというところで、私はやってしまった。
「ったぁー…!!」
よく切れる包丁だったのが災いして、手の甲をざっくりと切ってしまった。
思ったより出血が多くて、手持ちのばんそうこうでは間に合いそうにない。
「救急箱……体育館だ」
何かあったらすぐ使えるようにと、倉庫から出して置いたことを思いだす。
澤村先輩達に何か言われる前に、さっと行って必要な物だけ持ち出してさっと戻ろう。
まだ料理だって途中だし。
そう思いながら体育館へ向かい、練習の邪魔にならないように気配を消して中へ足を踏み入れる。
けれど何も言わず一目散に救急箱へ向かう私の姿をめざとく見つけた菅原先輩が離れた場所から声をかけてきた。
「どしたー?なんかあった?」
「え、いえ、大したことでは」
あはは、と苦笑いしながら救急箱に近づく。
もういっそ救急箱ごと抱えて立ち去ろうか、なんて考えた時。
折しも近くにいた旭先輩がギョッとした顔で叫ぶ。
「うわあぁぁああ?!?何、何?!それ血?!?!血だよね?!?何したらそうなるの?!?ってか痛い?!痛いでしょ??!」
旭先輩の視線の先には真っ赤に染まるタオル。
手の甲からの出血が意外と多かったようで、傷口を抑えていたタオルにじっとりと染み込んでいた。
「あ、旭先輩、落ち着いて…」
痛いのは痛いけれど、旭先輩の動揺っぷりを見るとそっちの方が心配になってしまう。
「おおおおおお落ち着いてないで、血、血、止めなきゃ…!!!!」
慌てた旭先輩が救急箱の中身をひっくり返す。
湿布やピンセットを持って私に渡そうとする。
「いや、旭先輩湿布はいらないです…」
冷静に受け答えする私に反して旭先輩は動揺しまくっている。
「もうあれだ、救急車、救急車呼ぼう?!?」
慌てふためく旭先輩をよそに、烏養コーチが近づいてきて、手早く手当をしてくれた。
「何、包丁で切ったのか?」
「…はい。ご迷惑おかけしました」
「気ぃつけろよ、ったく。武田先生だっていないんだし、何かあったら困るんだよ、俺が。」
「はい、すみません」