第11章 合宿3日目
「黒崎ー!ドリンク頼むー!!」
洗濯物を干し終えると、体育館から澤村先輩の声が届いた。
言われる前に動きたかったけれど、あれもこれもこなしていると段々訳が分からなくなってくる。
初めて1人でマネージャーの仕事をしているから、多少の失敗は目をつむってもらえるだろうけれど、なるだけなら部員の活動がストップしてしまわないように動きたい。
「はい、お待ちどう!」
ドリンクボトルを抱えて体育館に飛び込むと、「居酒屋かよ」とあちこちからツッコミが入る。
ツッコまれてから、自分の発言を思い返しておかしくなる。
段々と、余裕がなくなってきているみたいだった。
1人であれもこれもと仕事をこなすのは、思っていた以上にしんどい。
「だいぶ疲れただろう?さっきからあちこち駆け回ってるもんな。お前もちゃんと休憩取ってるか?」
「大丈夫で「休みなさいよ?」
大丈夫です、と言おうとしたが途中で澤村先輩に遮られてしまった。
顔は笑っているが、これはちょっと怒っている時の笑顔だ。
「ちょうどいい、今から試合形式やるから、得点板頼む。ちょっと座って休憩しろ、な?」
有無を言わさない澤村先輩の無言の圧力にかなうはずもなく、素直に頷いて練習試合を見ることにした。
練習とはいえ、『試合』になるとやはり皆一層気合が入るようだ。
なんともいえない気迫が、こちら側にもびしびし伝わってくる。
菅原先輩、旭先輩、西谷先輩、木下先輩、月島君、山口君のチームと。
澤村先輩、田中先輩、縁下先輩、成田先輩、影山君、日向のチーム。
同じ部員同士とはいえ、ネットを挟んだ今は、お互い負けたくないという気持ちが燃え上がっているようだった。
澤村先輩は「休憩」と言ってくれたけれど、試合の流れが速く意外と気が抜けないことに気が付いて、これはこれで疲れそうだとちょっぴり思ったことは内緒だ。
試合は一進一退の攻防を繰り返し、そのままデュースへともつれこんだ。
どちらのチームも息を切らせて、床に水たまりを作らんばかりの勢いで汗をしたたらせている。
「旭、頼む!!」
菅原先輩が声を振り絞って叫ぶ。
ネットから離れた少し高めのトスがキレイに上がる。
いつだか聞いた、旭先輩が得意なトス。
走りこんできた旭先輩の体が力強く浮き上がって、腕がしなった。