第11章 合宿3日目
本日何回目か忘れてしまった洗濯終了の合図に、ふとまた意識がこちら側に戻ってくる。
今はとにかく、仕事を滞りなく進めることに集中しなくては。
頬を何度か叩いて気合を入れ直す。
洗濯物を放り込んで山盛りになった洗濯籠を持ち上げる。
脱水にかけたとはいえ水を吸って重くなった洗濯物は結構な重量だった。
まだ仕事は他にも山積みだ。
ふらつきながらも干し場に向かっていた途中で、急にフッと手にかかっていた重さが消えた。
「手伝うよ」
山盛りの白いタオルの向こうから顔をのぞかせたのは旭先輩だった。
私の手から洗濯籠を受け取ると軽々と抱えて、私の返事を待たずに干し場へと歩み始めた。
「えっ、だ、大丈夫です!先輩は練習に戻ってください」
焦ってそう言う私に、旭先輩は首を振った。
「駄目だよ、1人で無理しちゃ。それに今は休憩中だから」
「だったらなおさらです!ただでさえ練習きついんですから、休めるときに休んでおかないと」
「それは黒崎も同じだろ?朝からずっと1人で動き回ってるじゃないか。俺が手伝えるのこういうことくらいだし、手伝わせてくれないか?」
旭先輩の言葉に、ぐっと言葉に詰まった。
確かに今日は潔子先輩がいない分、あれもこれも1人でやらなければと気負いこんで動きっぱなしだった。
合宿3日目の為、多少疲労も溜まっている。
「…じゃあ、干し場まで運んだら、休んでくださいね?」
「…おう、分かった」
しぶしぶ納得した私の顔を見て、旭先輩はまだ何か言いたそうにしていたが、言葉を飲み込んで大量の洗濯物を運ぶことに専念することにしたようだった。
「ありがとうございました」
「いや、少ししか手伝えなくて悪い」
「そんなことないです!すごく助かりました」
ぺこっと頭を下げると、旭先輩は優しく笑ってくれた。
「無理、するなよ。1人で全部やろうとしなくていいんだからな?」
「…はい。ありがとうございます」
「じゃあ、練習行ってくる」
そう言って旭先輩はくるりと背を向けて体育館へと消えて行った。
先輩の休憩時間を削ってしまったことが、やはり申し訳なかった。
緊急事態とはいえ、今までは潔子先輩1人でこなしていたことだ。
私がもっと手際よく、要領よく仕事をこなしていたら、旭先輩の手を煩わせることもなかったのではないだろうか。