第10章 2人の気持ち
「?…旭、なんでそこだけ濡れてるんだ?」
澤村が東峰のTシャツの染みに気が付き、そのことに言及する。指摘された当の東峰は、えっ、と小さくつぶやき、赤い顔をさらに赤く染めた。
「はっはーん。俺にはピンときたね!」
いたずらを思いついた子供のような笑みを浮かべた菅原に、東峰は嫌な予感を覚えた。
「あれだろ。涙に濡れる美咲ちゃんをギュッと抱きしめ…『俺の胸で泣けよ』…ってやったんだろ?」
「おぉ?!マジか、旭。お前なかなかやるな…」
菅原の過剰なクサイ演技に、若干引きながらも澤村まで乗っている。
過剰ではあるがおおむね間違ってはいない菅原の推理に、東峰は「あぁ」とか「うぅ」とか言葉にならない声しか出せなかった。
そんな東峰の様子を見て、2人はあらかたの事情を察したのだった。
「まぁ…、なんだ。明日も朝早いし、とりあえず寝るか」
大きな体でもじもじしている東峰をもっといじりたい気持ちは澤村にもあったが、消灯時間をとうに過ぎてしまっていることを思い出し、ニヤニヤしている菅原ともじもじしている東峰を部屋の中へと押し込んだ。
部屋の中ではすでに寝入っている部員達。
あちこち布団から飛び出してはお腹まで出しているものも多数いて、澤村はそっと布団をかけ直してやってから、自分の寝床へもぐりこんだ。
明日から、もう少し部員達の普段の様子も気にかけてやらないといけないな、と澤村は1人決意しながら眠りに落ちたのだった。
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ふわふわとした足取りで、部屋まで戻る。
先ほどまでの光景が現実のものだとは到底思えなくて、何度も頬をつねる。
つねると確かに痛くて、あぁこれは現実なのだと改めて思う。
いまだ残る旭先輩のシャツの匂い、ぬくもり、抱きしめる手の力。
思い出すだけで顔が赤くなる。
『思いっきり、泣いていいから』
耳元で旭先輩に言われた言葉が、また聞こえた気がした。
ふるふると首を振って、幻聴だと自分に言い聞かせるものの、頭がぼんやりとしてきて、もう1度、またもう1度と旭先輩の声をリピートしてしまうのであった。
「…美咲ちゃん、大丈夫?」
「き、潔子先輩?!」