第10章 2人の気持ち
みるみるうちに真っ赤になる東峰の顔を見て、自分達が想像していた事態までとはいかずとも、黒崎と東峰の間で『何か』があったのは間違いない、と菅原と澤村は確信した。
「…で、大丈夫だったのか、黒崎」
「あ、うん……。今は、落ち着いてると思う。…けど、詳しい事情は聞けなかったから、大地もスガもできたら気にかけてあげて欲しい。…家のことで、悩んでるみたいだ」
東峰の脳裏には、先ほどの黒崎の怒りに満ちた顔が浮かんでいた。あの状況をどうやって彼らに説明したらいいものか、東峰は悩んだ。
事細かに会話の内容を伝えるのも憚られたため、かいつまんで2人に説明をすることにした。
「そうか…。あいつ抱え込みそうなタイプだからなぁ」
さすが中学から主将をつとめているだけあってか、澤村の人を見る目はしっかりしているようだ。
東峰も澤村の黒崎評にうんうんと頷く。
「…ああいう時ってさ、俺、どうしたらよかったんだろう。なんかもっとうまいことやれたんじゃないかって思うんだよね…スガとか大地だったらさ、もっと黒崎の悩みに深く付き合ってあげられたんじゃないかな、って思うよ」
困った顔で力なく微笑む東峰に、菅原と澤村は顔を見合わせる。
「いや、これは旭じゃなきゃ、ダメだったと思うぞ」
「そうそう。俺達じゃ、話してくれなかったと思う。『大丈夫』って言って強がって、そこから先踏み込ませてくれなかったと思うよ」
2人が真顔でそう言うものだから、東峰は驚いてしまった。
目を丸くさせたまま固まってしまった東峰に、さらに菅原は続けた。
「美咲ちゃんはさ、誰とでも気さくに話す子だけどさ。旭にだけは特別心開いてるように見える。傍で見てたら、よく分かるよ。旭、気づいてないの?」
菅原の目にはおちゃらけた雰囲気はなく、冗談でもからかいでもなく、本心から言っているのだと、東峰にも分かった。
「……っ」
瞬間、菅原に言われたことが気恥ずかしくなって、東峰は顔を真っ赤にさせながら俯いた。
思わず握りしめたTシャツに染み込んだ、黒崎の涙の跡が目に入り、東峰はごくりと息を飲んだ。