第10章 2人の気持ち
様子を見に行ったきり、帰ってくる気配のない東峰を、後輩達は気にしない素振りをしながらも、気にしているようだった。
といっても事情をよく把握していない日向達1年生は、特段気にすることも無く、そうそうに眠りについていた。
東峰を気にする田中と西谷をなんとか寝かしつけて、菅原と澤村は2人静かに廊下へ出た。
「帰ってこないな、旭」
「ああ……」
「…旭に限って、ないとは思うけどさ」
菅原が、しごく真面目な顔で澤村を見る。
いつものへらっとした菅原の雰囲気が鳴りを潜め、澤村は何事かと身構えた。
「ふ、不純異性交遊…とか…してない、よね」
「ハァ?!な、何言い出すんだお前」
澤村は菅原の突拍子もない発言に一気に脱力する。
そんな澤村を見て、菅原はさらに言葉を続けた。
「いや、だってさ!旭だって健全な男子だべ?!様子見に行って結構時間経ってるしさ?!万が一ってこともあんじゃねぇの??!」
「……うーん…」
菅原の言うとおり、うら若き男女が夜な夜な二人きりになるということは、その可能性がないとも言い切れない。
あのへたれな旭が合宿でそんな行動に出るとは思えないが、ちょっとしたはずみで、そんな流れになってしまうというのも無きにしも非ず、か。
澤村は万が一今そんな状況になっているのなら、安易にけしかけてしまった自分にも非があるような気がしていた。
「……あと10分して戻らなかったら、俺も様子を見に行く」
あの2人のことだ、単に話しているだけの可能性が高いだろう。そうであってほしいという澤村の願望もあった。
合宿中に部員がそんな行為に及んでいたことが露見したら――教頭の顔が浮かんで背筋が寒くなる。
「まぁ、旭に限ってそれはないと思うけどね……」
煽っておきながら、菅原はそう話を締めくくったのだった。
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「…大地?それにスガも?」
「あっ、戻ってきた?!」
月明かりの差し込む廊下に、東峰の大きな影がのびる。
澤村はホッとした表情で、東峰を出迎えた。
「どうしたんだ、2人とも」
「どうしたもこうしたも、お前がなかなか帰って来ないからだなぁ…美咲ちゃんに手ぇ出してんじゃないかってこっちはヤキモキしてたんだよ」
「…?!?ハァ?!!?そんな訳ないだろ?!?な、何言ってんのスガ?!」