第9章 GW合宿 2日目 東峰side
「…はい。聞いて欲しい時は、ちゃんと、言います。その時は、聞いてもらっても、いいですか」
その言葉に、ようやく、いつもの黒崎が戻ってきたような感じがした。
「もちろん。いつでも構わないよ。…よかった、ちょっとは落ち着いたかな」
「はい、だいぶ。…心配かけてすみませんでした。」
「気にするな。俺が勝手に気にしただけなんだから」
ぽんぽん、と黒崎の肩を叩く。
するとまた彼女の瞳がうるうると揺れ出そうとする。
俺、なんか失敗しちゃったかな…??
「すみません、ちょっと今涙腺が弱くなってて!」
黒崎は必死で涙をこらえようとしている。
また顔をそらして、ぶんぶんと手を振っている。
「いいよ、気にしなくて。…泣いたらスッキリするんじゃないか?」
俺の言葉に、黒崎はぴくんと反応する。
「う、でも泣き顔見られるのは恥ずかしいです…!」
「あ…そ、そうだよな……」
しまった、考えなしに発言をしてしまった。
泣き顔なんて、見られたくないよなぁ。
黒崎は女の子なんだし、なおさら。
でも、目の前で必死に何かに耐えている黒崎を見ていると、これ以上涙を我慢させるのもよくないように思えた。
泣けば解決するものでもないだろうけど、それで少しでも彼女の心が軽くなるのなら―。
「……ん」
『俺の胸で黙って泣け』なんて、かっこいい言葉は言えない。
言えないけど。
「…っ?!あ、あしゃひせんぱ…?!」
一瞬間があって、黒崎が素っ頓狂な声を出す。
きっとびっくりしたんだろうな。
俺だってびっくりしている。
自分がこんなことをするなんて、思いもしてなかったから。
けど、気が付いたら体が勝手に動いていたんだ。
彼女は、嫌がるかな。
俺の腕の中の黒崎は、小さく震えている。
こんな状況なのに、彼女の事が可愛く思えてしまう俺は、どうかしているのだろうか。
「思いっきり、泣いていいから」
こんな支えでいいのなら、いつだって支えてあげたいと思う。
いつも一生懸命な君が、心安らげるのなら、その手助けが出来るのなら、なんだってやるよ。
黒崎に、笑っていてほしいから――。
そこまで思って、顔が、体が、かぁっと熱くなった。
なんだこれ、なんだこの気持ち。